35.偽物の決戦前夜

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偽物の決戦前夜。カリュとクレアは、話をしていた。

「ねぇ、ダーリンはあーしがいなくなったらどうする?」

「寿命が短いという話か?」

「そー。心の準備をしていてほしー」

「その言い方だと近いうちとも聞こえるのじゃが?」

「ダーリンは心配性なんだから! あーしは大丈夫!」

そう言ってカリュに抱きついた。しかし、幸せそうなカリュからは見えないクレアの表情には陰りがみえた。

「人通りのあるとこでイチャつくのやめてくれる? 温厚なボクでも、寝覚めにそういうの見せられると砂吐くわ。甘々だわ」

回復したアルルが水をもらいにきていたところだった。

「アルル! 僕を呼べって言ったろ!」

コンスが追いかけてきた。

「コンスはボクの保護者!? お母さん?!」

「アルル……」

「心配してくれるのはわかるけど、明日は大事な日なんだから、ちゃんとしてよ、コンス」

アルルがコンスの頭を撫でていた。お姉さんが弟にするような雰囲気だった。

「二人もイチャイチャしてるではないか!」

ヘルンだった。コンスもだが、ヘルンもこのところおかしい。

「クレア、大丈夫なのであるか?」

「あれ? ヘルン? 大丈夫よー」

クレアは、ヘルンにヒラヒラ手を振った。笑顔だったが、その目は余計なことを絶対に言うなという強い意志を宿していた。さすが母親が元ヤンなだけある。

「ヒッ! なのである」

ヘルンはすごい勢いで怯えて固まっていた。

「今日は一段と変だね、ヘルン」

アルルにつつかれていた。

「おぉ、変だからヘルン! 名前からルを抜けばヘンじゃないか! 初めて気づいたよ! いい名前だね」

「アルル! 待つのだ!」

ヘルンとアルルはいつもこんなやり取りをして追いかけっこしている。

「平和だな。こんな日が続けばいいのに」

コンスが勇者の剣の柄を掴みながら言った。

「その剣はお主に優しくないのか?」

「そうですね、この剣は前の持ち主のことを恋しがっています。自信満々で、強くて、魔物を倒すことを一切迷ったりしない真っ直ぐな男のことを」

「前の勇者なら、わしのことを問答無用で切りかかってきただろうな。あの火山に封印されていたかもしれん。そうなれば、死んだも同じじゃ」

「貴方が死ななくて良かったです。クレアさんのこともありますから。今の勇者が僕で良かったです」

「お主はそれで良いのか?」

「何がですか?」

「お主は剣から変わることを強要されておる。だが、お主は自分の信念を曲げぬ気であろう? 変わる気などない。剣も折れるつもりはない。その矛盾を抱えてこれから生きていくのか?」

「そうなります。まだ受け入れられないけれど」

「なぜ、剣の意志を上書きしようとせんのじゃ」

「この剣も一個の人格だからです」

「優しすぎるというか、ヘタレじゃな、お主。あまちゃんじゃな」

「あら、ダーリンだめよー。それがこの人のいいところなんじゃない? 私はダーリンが一番だけどね」

イチャイチャする二人をコンスは生暖かい目でみていた。

「コンスが綺麗なだけって話?」

綺麗なジャ●アンといいたいらしい。アルルとヘルンが追いかけっこから戻ってきた。

「だから、コンスなのである! それがいいのである!」

ヘルンの頬は恋する乙女のように薔薇色に染まっていた。

「おぅ、ヘルン……その発言は聞かなかったことにしておくから。前々からそうじゃないかとは思ってたんだけどね」

「え? なになに?」

アルルはヘルンの恋心を悟ってしまった。コンスは何も気づいてないようだ。

「アルル! それは、違うのである!」

「大変そうだね、いろいろと」

憐れみの目でヘルンをみていた。アルルは吟遊詩人として、過去の出来事を知っている。神と魔族の血を血で洗うような戦いを。神の血を引くコンスと魔族の血を引くヘルンはたぶん、上手くいくわけがない。相容れるわけがない。ヘルンの恋心は、悲劇しか生まない。それくらい根深い問題なのだ。

「だけど、本人達の問題だから、ガッツさえあればいけるかもしれない! 誰にも祝福されないかもしれないけど」

ヘルンの肩をがっしり掴んだ。

「だけど?! なにがであるか?! アルル?!」

「何遊んでるんじゃ。そろそろ寝たらどうじゃ」

うるさそうにカリュが三人を追い払う動作をした。クレアと二人にしろという意味のようだ。三人は促されるまま、部屋に戻る。

「あの二人の幸せが長く続くといいのである」

ヘルンが祈るようにつぶやいた。それは、これから訪れる不運を回避してほしいという願いが込められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 






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