32.火竜と領主の娘の恋

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「小さい頃、あーしが山でつんのめって足を挫いたとき、人型のダーリンが助けてくれてー」

猛反対している父親の手前、館では話せないとのことで、外に出て話していた。見覚えのある道だった。コンス以外には(コンスは今世紀最大の方向音痴)。

怪我をした足を抱えて空を見上げていると、大きな赤い鱗の竜が降ってきてた。クレアは食べられるかと思ったが、竜が人型に変化した。

「お主、大丈夫か?」

そう言って、その男はクレアをお姫様抱っこした。クレアは一発でその人が……いや、その竜が好きになった。

火山の上に小屋があった。そこに連れて行かれ、足の手当てをされた。

「ここに住んでるの?」

雨風が凌げるだけのような質素な小屋だった。

「他にどう見えるんじゃ。お主は領主の娘じゃろ。なんでわざわざこの火山に入ったんじゃ?」

「とーさまとケンカして飛び出してきて気づいたらここにいた。かーさまが死んでから、過保護すぎてうざい」

「父親がいるだけよかろう。どんな父親であれな。現にお主は贅沢な暮らしをしておるではないか」

「贅沢な暮らしって楽しいと思う? あと、あーしの名前はクレア。それ以外で呼ばれても返事しないから」

「では、クレア。わしは火竜じゃ。人間の暮らしをしたことは一度もない。贅沢が楽しいかどうかはわからんな」

「火竜は、楽しみがないわけ?」

「あははっ! 長生きしておるのでな、生きることに飽いておるのは間違いないな」

「楽しいことないってこと? じゃぁ、あーしと遊んでよ。あーしも退屈で死にそう」

「そうじゃな。それもいいかもしれんな」

父親は口うるさくが、仕事が忙しく側にいてくれない。寂しくて、退屈で逃げ出して山に迷い込んだクレア。生きることに飽いているが、ある事情から、この火山という場所を離れることのできない火竜。二人は運命のように出会い、同じ時間を生きていく。火竜にとっては一時。クレエにとっては、幼少期のほとんどを。

二人はまるで父親と娘のようだった。花畑で花冠を作ったり、人型の火竜の膝の上でクレアは安心しきって寝ていた。

「あーし、政略結婚の道具にされる!」

クレアが泣きながら火竜に抱きつく。クレアが十六歳の時だった。

「結婚するなら火竜とがいい!」

「クレア、竜と人間は結婚できんよ」

「できなくても、死ぬまで一緒にいる! 生きてきた時間も、これから生きる時間も全然違うって知ってるけど、一緒にいたい!」

熱烈な告白だった。火竜は自分の顔が熱くなるのを長い間生きてきて、初めて感じた。火竜とクレアの違いは大きい。知っているのに、ここまで言ってくれる人間がいるとは思わなかったのだ。しかも、クレアはたった十六年しか生きていない。

「クレア、死ぬまで一緒にいようか」

「はい!」

こうして、二人はひっそりと夫婦になった。人間と竜の恋が実った瞬間だった。

「ドラマチック!」

アルルが叫ぶ。この話は吟遊詩人の中でトップクラスで語り継がれる話になるだろう。

「でしょでしょー! あーしはカリュがだーいすきなんだー」

「え? 待って待って」

「カリュって会ったよね、最初に」

「そ~ね~ぇ~」

「呼んだか?」

「あ! 最初の道楽貴族!」

「ダーリン! いると思った!」

いると思ったから、名前で呼んだんだろう。意外と頭の回転がいいのかもしれない。

『えぇ~!』

と、驚いてみたが、アルルにはそうじゃないかという情報があった。吟遊詩人として伝わるこの街の由来によってだ。なぜかゲイルもあまり驚いていなかった。検討がついていたようだ。

「カリュが火竜なの?」

「何を隠そうな。勇者一行じゃろ。勇者の剣は大昔に見たことがある」

「あーしは、小さい頃、火竜って言えなくて、カリュって言った時からそう呼んでる」

勇者であることなど、いろいろバレていたとは思わなかった一行であった。

「わしは、クレアとの仲を認めてもらうだけでよいのじゃが、あのごうつく領主は、一向に認めようとせん。いっそ、攫ってしまいたいが、わしにはここにいなければならない理由があるのじゃ」

「理由ってなんなの?」

アルルはあまり興味なさそうに聞いた。あるいは、見当がついていたのかもしれない。

「わしが死んだり別の場所へ行けば、ここ一体はマグマの海であるぞ。火山が噴火する。わしが押さえておかねば、な。わしを倒すか? 死んだらこのあたり一面がマグマの海に沈もうがなにしようが、良心の呵責に悩まされることもない。だが、せめて子供が産まれてからにしてほしいものだな」

「なになに?! クレアのお腹の中には子供がいるの?」

今度の食いつきは違いすぎた。怖いくらいだ。コンスはアルルの勢いにドン引きしている。基本、ドン引きしている節がある。コンスは引き気味なのだ。それに、今その話してる場合じゃないだろう、という至極真っ当なことをアルルに訴えかけている。毎度毎度。だが、本当に物理的に聞こえていないのだ。便利な耳なのだ。

「そのお腹の子は魔法使いとなろう。そして、クレアとわしの寿命は違いすぎる。子供ともな。こんな不幸なことがあっていいのか。もう、倒されても構わないな」

カリュはそう嘆くのであった。

「この街の由来、火竜の住む街カリュっていうんだよね。由来は、竜語らしいから良くはわからないけど。昔、ここ一体は火山で人が住めなかった。火竜が住み始めたら、ここは、どこよりも住みやすくなった。昔の吟遊詩人との約束に縛られてるのかな……今、クレアがカリュって呼ぶのは偶然だと思うけど、あなたは、昔の面影そのままだ」

アルルの瞳は金色になっていた。

「吟遊詩人と約束した。お主と同じように緑の瞳じゃったが、金色になっとったな。不思議な男じゃった」

「その人は女だと思うよ。あんまり話しちゃいけないんだけど、吟遊詩人には厳密な決まりがあるんだ」

「なんと! 結構一緒にいたが、気づかなんだ」

「ダーリン?」

責めるような瞳でクレアはカリュを見ていた。

「クレア! 誤解じゃ。その吟遊詩人とは、そういう関係じゃない!」

「そういう関係じゃなくても結構な好意はもってたでしょー?」

「クレアに出会う前じゃぞ?!」

「あ~ら~離婚~騒動~か~し~ら~?」

「女の嫉妬は怖いのである」

カリュの昔の女のことで、女性陣がきゃっきゃっと盛り上がっていた。

「倒したことにしよう」

「コンス?」

「ちょっと、鱗とか角とか大事なものください。倒した証拠にします。完全に倒すと火山が噴火するので、他は持ち出されないよう誰にも見つからないところに隠して、火山が噴火するのを抑えています、でどうだろう? 貴方は、これで領主の娘と暮らせませんか? 俺は、あなたを火竜というだけで倒したくない。ましてや、この土地を噴火から守っているあなたを」

「願ってもないことじゃが、その程度でクレアの父親、領主の目を欺けんじゃろうな。腹黒で計算高く、狡猾だ」

「あーしも、自分の父親のこと悪くは言いたくないけど、カリュのことに一切聞く耳を持ってくれなかった。それに、カリュに聞いて、この街を維持するために、かなり悪どいことやってるって知ってる……」

「守るために仕方なのないことであろう。それと、クレアの母のこともある」

「あーしのかーさま?」

「領主のことは注意しとった。一度、見たことがある。母親はクレアと同じしゃべり方のスラム街出身の娘という噂があったのじゃ。悪ぶっておって気の強いが、優しい娘じゃった」

「どうして、そんな二人が出会ったの?!」

アルルの吟遊詩人魂が炸裂した。

「話を前に進めてほしいんだけど」

コンスのことは無視して、火竜は語りだす。

「運命とは、時に数奇なものじゃ。わしも聞いた話じゃし、少し時間がかかるがいいか?」

長く生きてきた竜は、そう言ってため息をついた。

「良くないから!」

コンスのツッコミは華麗にスルーされた。

 

 

 

 

 

 






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