31.領主の娘

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「あーしが領主の娘」

そこには、一点の汚れもない完璧な淑女がいた。ドレスを着てどこぞの貴族かと思う外見だった。ただ一つ、しゃべり方を除いては。

「あーしとダーリンの噂を聞いたって?」

『ダーリン?!』

勇者一行全員の声が揃った。

「火竜のこと。あーしとダーリンとの仲をとーさまにめっちゃ反対されてて」

「何語?」

「わからないのである!」

「ヘルンでもか」

「どういう意味なのであるか」

アルルとヘルンのいつもの掛け合いだった。なんだかんだいって、仲がいい。

「ダーリンは怒って街を襲い始めたっていうか? あーし愛されてっから」

「あーしって自分のことだよね?」

悪ぶってる女の子が使うらしい。

「あーでも、ダーリンのことは内緒って言われてんの。あんまり人間と関わりたくないらしーわ」

「悪名高い~か~ら~、冒険者~と~は~会~い~た~く~な~い~で~しょ~ね~」

「魔物は人間から嫌われる傾向にあるしな」

「ねぇ、どうやって出会って恋に落ちたの?!」

「聞いちゃう? それ聞いちゃう?」

「聞いちゃーう!」

「お茶だすから、家に寄ってきなよー」

アルルと領主の娘は意気投合したようだ。

「そんな、たいした話でもないんだけどー。運命の出会いっていうか? 一目見た瞬間、あーしはあの人……あの竜があーしの運命だってわかった。ビビビってきたってゆーか」

領主の館は、とても広くて綺麗だった。

「ずいぶん大きいな。豪華だし」

ゲイルは顔をしかめる。こういう屋敷には、だいたい、黒い事情がある、とため息をついていた。街の豊さと比例していないからだ。黒い噂もある。

「あーりまえ! とーさまは王さまからこの街の管理任されてっから」

あーりまえ、は当たり前のことだろう。その様子から彼女は父親のしていることは知らないだろう。

「ゲイル、言いたいことはわかるけど、その情報は吟遊詩人的にいらない。ボクはあなたと火竜の話が聞きたい! あ、失礼だったね、あなたの名前は?」

「あーしの名前はクレア」

「クレア、あなたの話を聞かせて」

少し考えた後、クレアの顔が曇った。

「明日でいい? もう夕食の時間だわ。一緒に食べないと、とーさまがうるさくって。かーさまがあーしの小さい時にしんじゃったから過保護で」

「明日また来るね!」

アルルは落胆下顔で言った。だが、仕方ないとため息をついた。領主の館からの帰り道。五人は話をしていた。

「魔物と恋に落ちた人間であるか。きっと、こうやって、魔法使いが生まれてくるのであるな」

ヘルンが感慨深げに言っていた。

「魔法使いって、魔物の血を引く子供なんだっけか。ヘルンはその子孫ってことだもんね。火竜の子供なら、火の加護を受けてるのかな」

アルルはドラゴンとの子供の話なんて聞いたことないと何気なく言う。

「どうだろうな……この勇者の剣は、全ての魔物を倒す剣だ。自分の意志で魔物を切りたがる」

コンスが暗い顔で言った。

「結構こまったちゃんだね。前の勇者のときは、そんな心配なかったって記録にあるよ」

アルルの瞳はまた、金色になる。

「前の持ち主は、この剣の最初の所有者だろ。真っ白だったから何にも引きずられなかった。でも、初代の色がついたこの剣はそれから長い時間を孤独に耐えてきた。そのせいか、時々僕が負の感情に引きずられる」

「ボクが引き戻してあげる」

アルルは純粋で疑いのない瞳だった。戻せると信じている瞳。それは、コンスに衝撃を与えた。アルルはコンスが剣の意志に引きずられるとは思ってもいないし、引きずられてもコンスは揺るがないと信じているのだ。一遍の疑いもなく。アルルだけじゃない。仲間全員が思っている。

「ア~ル~ル~が~で~き~る~かし~ら~?」

「できるよ!」

「アルルは過剰な自信を持っているのである」

「ヘルンだってそうでしょ!」

「ケ~ン~カ~はや~め~て」

女子三人は楽しそうに、当たり前に話している。

コンスは剣の柄を握って下を向いていた。

「信頼って重いものなんだ」

コンスは、勇者の剣の意思が怖かった。自信がなかったのだ。元々、勇者になりたくてなったわけでもない。勇者という名を背負う覚悟がなかったのだ。

「僕は何にも負けられない。自分にも。この剣にも。剣の腕を磨くだけじやだめだ。ちゃんと仲間を守れるようになりたい。僕も、皆や自分を信じられるようになりたい」

コンスが初めて、なりたい自分を決めた瞬間だった。この五人なら大丈夫と思った瞬間でもあった。

 

 

 

 






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