「ねぇ、いつ着くの?」
冒険に出発して一週間が経とうとしている時だった。
「火竜が暴れてる街は遠いんだ。1ヶ月以上かかるんじゃない?」
コンスが何気なく言う。
「1ヶ月?!」
「旅だと普通だと思うが」
ゲイルが意外そうに言った。
「長くて半月くらいしかしたことないから」
アルルの故郷からはじまりの街がだいたいそれくらいだ。アルルには風使いの能力もあるため、それに、いざとなったら、風の精霊に運んでもらえるのだ。
「うぇ~~~。長い!」
「冒険をなんだと思ってるんだ」
コンスがお兄さんらしくアルルを叱った。本当のお兄さんではないが。
「だってぇー」
「風の精霊が全力で甘やかしにきてるのである!」
うらやましいヘルンであった。
「ね~え、風の~精霊~と~アルル~の~関係~っ~て~な~ん~な~の~か~し~ら~?」
「関係か……家族みたいな? う~ん、違うな一心同体っていうか、元は一緒みたいな?」
「全然わからないのである! だけど、不公平なのである!」
「ヘルンだって魔法使えてるじゃん!」
「魔法はそんなに簡単に使えるものではないのである!」
「あれ? そうなの?」
「そうなのである! 適性のあること、知識のあること、経験があって使いこなせるのである。それを極めることは容易ではないのである!」
「生まれ持った才能だけじゃなく、努力が必要ってこと?」
「アルルは生まれ持った才能だけで風を使えるのは卑怯なのである!」
「それは、ヒガミというものだよ。ヘルンは生きづらそうだね」
「うるさいのである!」
ヘルンとアルルが言い合いをしている外で二人以外の三人は難しい顔をしていた。
「魔法~は~難~し~い~わ~ね~」
「呪文や魔法陣の力で通常にあり得ない現象を起こすものだからね」
「アルルみたいな風使い、精霊魔法は風の精霊の力を借りる自然の魔法だな」
「魔法が不自然みたく言うなのである!」
口々に言う三人と、それに反発するヘルンなのであった。
「この中で魔法が使えるのはヘルンだけなんだもん。魔法のことなんて、わかんないよ~」
パーティの楽しい会話に水を差すモノがあった。
「魔法は魔族の能力、ひいては魔王様の能力ですよ」
音もなく佇んでいる不気味な笑顔の人型の得体の知れないモノがそこにあった。そう、まるで元からそこにあったように、突如そこにあった。外見は執事のようだ。
「ひっなのである!」
ヘルンの後ろにそのモノはあった。
「悪魔だ!」
コンスが咄嗟に剣を構えるがヘルンを庇うのに間に合わなかった。鎌鼬のような無数の塊がヘルンに襲いかかった。
「なぜ、貴女のような矮小な人間を魔王様は気にしていらっしゃるのか理解に苦しみます」
ヘルンは身体中を浅く切り刻まれて血を流していた。命を狙うというよりは、いたぶっているようだ。
「ヘルン!!!」
「勇者とは忌々しい。血筋の者がその剣に選ばれることによって勇者と呼ばれる。有資格者。勇者は全ての魔物の敵。ヘルン、貴女のような魔の能力を持つ者と勇者が相容れることはないのですよ」
丁寧な言葉遣いだが、吐き捨てるような印象だった。ヘルンの側に瞬間移動した。
「その恋心、魔王様に会うまでに捨てておきなさい。今のコンスという者は勇者に相成ったのですよ。分不相応な思いは自身を滅ぼしますよ」
屈み込んでヘルンにだけ聞こえるように耳元で言った。切りかかろうとしたコンスを瞬間移動でかわす。
「私の名は魔王様の側近アルバと申します。以後お見知りおきを」
優雅な一礼をして不適な笑みを浮かべていた。
「さて、魔王様にどんなお仕置きをされるか、楽しみです」
そう言って音もなく消えた。
「ドM……?」
「そんなことよりヘルンだよ!」
「私~の~方術~が~効~か~な~い~の~」
「なんで?!」
「悪魔がつけた傷だからか?」
「あ! いいものがある!」
おもむろにアルルが瓶を取り出した。
「はいぽーしょん?ってやつ! アルミーっていう錬金術師に貰ったんだ! 5本くらい!」
ヘルンに飲ませた。その効能はすさまじい。アルミーという錬金術師の腕がいいことを物語っている。
「おぉ~超回復!」
ヘルンの傷は見る影もなくなっていた。
「あの、アルバってドMの変態悪魔には二度と会いたくないである!」
「魔王が気にしてるって言ってたよね。やっぱ勇者一行だから?」
「どっちにせよ、また出くわさないといいけど」
コンスがため息をついた。彼は勇者になんてなりたくなかったのだ。望んでなるものではないのだ。